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共通テスト国語2023 (5)──評論⑤_選択肢の検討その3

共通テスト国語の解説のつづきですよ~。わたくしQ氏もけっこうトシを自覚する頃合なので、前回までの密度で解説を始めたものの、目がチカチカして痛くなったりする。受験生の皆さんに需要があるのかどうかは分かりませんが、いちおうやりますね。

…今年、初めて当予備校ブログを担当させていただくので、勇んで始めましたが、これを共通テスト1回分、全部やるのはかなりキツいっスね(ポツリ)。逆に、ここまで詳しく解説している本とかはないと思うぞ。自画自賛。こんな分量書いてたら、ページ数がいくらあっても足りないもん。

 

さて第1問評論問5である。

 

傍線部D「壁がもつ意味は、風景の観照の空間的構造化である。」の意味を問う設問だが、これはけっこう紛らわしい。問う部分はよいのだが、なんか選択肢が無駄にめんどくさい気がするぞ。問2と共に今年の評論の出題の疑問部分である。

 

まず、傍線部Dの意味を独自に「翻訳」できるようにした方がよい。観照が難しい語なのだが、これは直後に出てくる「テオリア」の漢語訳として使われる語である。ここではギリシア語で、『見ること』『眺めること』の意。」と注がついている。

「空間的構造化」「空間を仕切って構成し直すこと」とでも訳せるだろう。だから傍線部Dは「壁がもつ意味は、空間を仕切って構成し直すことによって、(住宅の内部で)風景を静かに眺めるいとなみを可能にすることである。」とでも訳すことができるだろう。

このように、明らかに書き方が難しい文の意味を問われている場合、自分で翻訳してから選択肢に当たってみることは大いに訓練になる。今年の受験生だけでなく、来年の受験生も今から折に触れてやってみるとよいと思う。

 

そこで選択肢を検討。

まず全然ダメなのは①②。①が全然ダメなのは分かりやすいと思うから、皆さん考えてください。②は「さまざまな方向から景色を見る自由が失われる。」「人間が風景と向き合う空間」がダメです。

 

残る③④⑤のうち、④は「風景を鑑賞するための空間」がダメ。「鑑賞」と「観照」の意味は違うのだ。壁と窓による視覚の構造化は風景を愛でるためになされるのではなく、居住者が内面にこもって瞑想し、沈思黙考する(これらは「ものごとを静かに眺める」という意味での観照と意味が近い)ために施されるものである。

 

さて、残る③⑤の決勝戦がけっこう難しい。正解は③なのだが、ダミー選択肢の⑤がダメなのは「自己省察するための空間」「自己省察だけである。テクスト中で筆者が述べている「瞑想」「沈思黙考」は、必ずしも「自分を省みる」というような、或いは「自己とは何か」という問いを発しつつ考えるような、道徳的・哲学的な反省ではなく、むしろ無心になってありのままの自分に還るというような、座禅や流行りのマインドフルネスみたいな営みを指していると読めるからである。「沈思黙考」とはいうが、ここでは考え込むというよりは「無心になる」ことがイメージされているのではないか。

が、本肢でも「自己省察」という哲学的用語の意味を、出題者が限定して使いすぎのような気がする。「自己省察=道徳的・哲学的反省」というのは、ある程度人文系の教養のあるヒトの間でこそ暗黙の了解と言えそうだが、共通テストの受験生に、本文中にも説明されていない「自己省察」の意味を、いきなり的確に解釈することを求めていいのか? という疑問はある。

問2の「自己の救済」といい、なんか、人文系大学1~2年レベルの教養を前提としすぎのような気がする。ひょっとしたら作問者は、こういう言葉の意味は受験生にとって自明のものではないということが、分かっていないのではないだろうか? 受験生の頭の中が見えていないのかもしれない。満点阻止策にせよ、ちょっとやりすぎな気がする。どこから見ても納得できる良問とは思えませんね。

 

最後の問6は共通テスト名物「話し合い」或いは「メモ」コーナーである。だん吉・エバのおまけコーナー!(←このネタは分かるかな…)こういうのは、割といい設問だと思う。

急ぎ足で行こう。

(ⅰ)は【文章Ⅰ】が「窓」、【文章Ⅱ】が「壁」を主題にしていることが読み取れれば、比較的平易。正解は④で、ダミーは③。③は「窓の機能には触れられていない」がマチガイ。

(ⅱ)はちょっと紛らわしいが、正解は②。ダミーは①だが、「現代の窓の設計に影響を与えたこと」がダメ。確かにそういう面もあるのだろうが、2つのテキストが直接に主題として論じているル・コルビュジエの建築の特色は、選択肢②にあるように「居住者と風景の関係を考慮したもの」であることだ。本文のテーマに関する選択肢だから、①は脇道にそれていて、ダメだと考えるべきだろう。

(ⅲ)は非常に面白い設問。2つのテキストの相違を通して、1本目に述べられていた「子規の書斎」も、実は2本目のテキストの窓と居住空間に対する解釈によって再解釈できるのではないか…という、センターさんの独自解釈をありがたく押しつけてくる設問だ。もちろん的確で、非常によい解釈だし、読解力のある受験生は目からウロコが落ちるような新鮮さを感じるかもしれない設問だが、やはり解釈を誘導しすぎのような気がする。設問者が「どうだ、この解釈はすごいだろ!」と自慢しているような、パワハラ的見せつけ感はある。評論の読解では、もうちょっと中立的な解釈を問う方がいいんじゃないか…とQ氏は思うが、まあ、この選択肢は面白いからいいか…という気もして、いわく複雑である。正解は③

 

問6は各選択肢が4択と少なく、割に簡単に2択に絞れるように作ってあるから、問題量は多いが、ここはスピーディに駆け抜けたい。ただし、来年以降はこの問6のような部分が「激ムズ」になるとかいうパターンも考えられないではない。

 

ともかく、今年の第1問は全体に「力みすぎ」のような気がした。問2と問5が疑問手で、意地が悪いか作り方が悪いか、どちらかである。でも、テキストそのものは、部分的な説明不足(「動く視点」など、出題部分以外のところに書いてある内容が出てくる)はあるけれども、なかなか新鮮で評論文の醍醐味を感じさせるし、問6の(ⅲ)が独善的ではあるが、非常に面白い。

受験生からすると、かなりやりにくかっただろう。今年の受験生の皆さん、おつかれさまでした。

 

さて、次回からは第2問・小説を検討しよう。