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共通テスト国語2023 (8)──小説③_選択肢の検討その2

さて、引き続き共通テスト2023第2問(小説)である。選択肢を検討しよう。

 

問4。前々回の「小説①」の記事で検討した、「『私』が本当に農作物を盗んで食べているのか」の問題にきっちり答えが出せないと、正解①を選べないようになっている。選択肢①は「農作物を盗むような生活の先にある自分の将来」の内容が不明瞭だが、これはもともと本文傍線部Dの直前部分「こんな日常が連続してゆくことで、一体どんなおそろしい結末が待っているのか。」「おそろしい結末」の中身がはっきり限定されていないので、それに対応した書き方である。この部分があいまいだとか、「農作物を盗むような生活」が正しいのかどうか分からないとかで、もし①が正しいという確信がすぐに持てなかったら、保留にして消去法を試みればよい。

まず、本文のこの場面では、「私」の回想の中に「富んだ人と貧しい人」が両方出てくるので、どちらか一方に偏った書き方をしている選択肢はダメである。②がそれに当たる。

「私」は貧富の格差が存在する不条理な世をやっとのことで生きており、周囲のさまざまな境遇の人々の中で、こそ泥まがいのことをしなければ食べていけない自分の「立ち位置」を認識し、このままではおそらく悲惨な未来しか待っていないだろう…と絶望的な気持ちに襲われたのだと解釈できる。

②の次には⑤の後半もダメ。さらに③も「経済的な格差のある社会でしたたかに生きる人びと」「したたかに」がダメ。したたかに生きている人も確かに出てくるが、「私」の回想に出てくるのはそういう人ばかりではないからだ。

ダミー選択肢は④だが、これはまず「やっと思い至った」がダメだろう。「私」はこの場面で改めて今まで出会った様々な人々を回想しているが、世の貧富の格差に初めて気づいたわけではない。

また④の末尾「さらなる貧困に落ちるしかないことに気づいた」「言い過ぎ」で本文に書いていないからダメだ、とセンターさんは言いたいのかもしれない。が、本文で内容が限定されていない「おそろしい結末」「さらなる貧困」と読み替えて悪いわけではないし、その結末とは、結局は貧困のどん底に落とされ、極端な場合は盗みによる投獄や餓死に至ることだと言い換えられるだろうから、④のこの部分が間違っているとは必ずしも言えない。そうすると④は「やっと思い至った」「やっと」だけが間違いだという、かなりきわどい選択肢になる。ちょっと反則技っぽいですね。

 

次に問5。

まず、(1)発言の背後にある「私」の考えや心情が合っているかどうか。

次に、(2)庶務課長に対する「私」の口調の説明が適切かどうか。

この2つの条件から各選択肢を検討すると、選択肢②⑤が(1)(2)ともにダメ。

③は(1)に関して「課長に正論を述べても仕方がないと諦めて」の部分が、「私」の心情として決して不自然とは言えないが、本文から直接読み取れない。(2)に関しては「ぞんざいな言い方」がはっきり違う。本文に描かれている「私」の様子は、「水のように静かな怒り」(本文5ページ目〈問題冊子24ページ目〉1行目)「低い声」(同2行目)であり、辞職を決意したことによって、怒りを秘めつつもかえって冷静になっている様子が読み取れる。

残る選択肢①④のうち、④はぶっきらぼうに」が明らかに違う。正解①は積極的に合っていると見極めにくい地味な記述の選択肢だから、消去法を使って確かめた方がよい問題だろう。

 

問6は、問題数が増えていることに配慮したサービス問題かと思われる。だったら1問減らせばいいのに。選択肢②③⑤は明らかにダメダメなので、いきなり①④の2択に絞れる親切なつくりだ。②③⑤がダメなのはすぐ分かると思うが、念のため皆さん自身で考えてみてください。

①④による決勝戦では、①の「これからは会社の期待に添って生きるのではなく自由に生きよう」の部分が、「自由に生きよう」は不自然ではないにしろ、「会社を辞めるのだから、会社の期待云々はこれからの人生には特に関係がない」という点で「最も適当」とは言えないという判断になるだろう。結局④が正解である。

 

共通テストの国語では、問題の指定は「最も適当なものを選べ」という形になっている。

実際の問題を見ていると、この指定は「正しい選択肢は常に1つしかないから、それを指摘せよ」という意味では必ずしもなく、個々の選択肢に「ちょっと適当」な記述が交じっている場合も、「適当度」がより高い選択肢がほかにあれば、より適当度の高い方を正解とし、適当度の低い選択肢は不正解にせよ、という意味とも解釈できる。本文に一致する度合いが80%の選択肢と100%の選択肢とがあったとすると、80%の方は間違いだとするような基準である。

そういう基準を採用されてしまうと、80%も一致していれば完全な間違いとは言えないではないか、という抗弁は認められなくなる。前々から指摘している通り、特に小説の選択肢で、この「一定割合は合っていると思われるのに、もっと適切な選択肢が他にあるから不正解とされるもの」が生じやすい。問6の①はそんな感じがする。

いくつかの選択肢を用意した上で正解を1つに絞る必要からとはいえ、つくづくヘンなルールですよね。

 

さて、共通テスト名物「メモコーナー」の検討が残ってしまったが、これは次回に回そう。