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ニッポン学歴社会17──本人もつらいよ

さて、実はわたくしQ氏自身がかつては「高学歴バカ」だった…というタネ明かしであった。どうりで高学歴バカのディテールに詳しいわけである。

では、Q氏はどの段階で高学歴バカになったのかというと、記憶をたどると、やはり大学入学後だろう。高校生のころまでは、時おり学級委員や生徒会役員を務めるような、まじめな出木杉くん」であった。

今でも周囲の方々から「温厚な人」というような評価をいただくことは頻繁にあるので、ベースとなる性格は、客観的に見ても「高学歴バカ」流の傲慢さとは少し離れているような気もする。

が、大学入学後、いつの間にか悪の組織ショッカーの改造手術を受け、世の中をナメきった「高学歴バカ」になってしまったのである。

やはり、高学歴バカの罠は怖い。おそらく本当に、まじめで謙虚な「出木杉くん」がモンスター化し、ショッカーの改造人間になってしまうのである。

医学部受験生諸君、怖くないか。

 

Q氏の「ショッカー改造人間時代」を懺悔(ざんげ)しよう。自分は世の中の人とは違うと考え、世のヒトビトは水族館の魚のように、透明な仕切りを隔てたところをくるくる泳いでいるだけだ…という感覚を持っていた話は、すでにした。「一般人」と話す際には、いつも「どうせ、まともに話をしても全部は分かってもらえないだろう」というような諦めがあり、傲慢になっているつもりは全くなかったが、どんな相手でも少し下に見ていた。特に、他大学の女子学生を下に見ていたね。

 

唯一気になるのは、大学の同僚である。同級生や教官、先輩の大学院生たちに対して、いかに自分を(できれば優秀な人材として)認知してもらうか。そのことに関していつも戦々恐々としており、自分が同僚にどのような印象を与えるのか、平凡でつまらない人間だと思われないか、いちいちかなり気にし、気の利いた発言ができないと赤面し、けっこう落ち込んでいた高学歴バカが仲間うちの評価ばかり気にする心理は、かなりよく分かる。

 

知らず知らずのうちに「高学歴バカ」と化したQ氏が、それでも高学歴バカ特有の、エベレストより高いプライドを保ったまま、陰で他人に嫌われながらも無事に自己中心的な生活をまっとうできていたかというと、世の中うまくしたもので、そうは行かなかった

 

とたんに精神を病んだのである。

 

今なら「適応障害」と言われるような症状だったと思う。うつ状態に陥り、大学に行けなくなってしまった。大学に行こうとすると、電車の乗換駅で思わず別の路線に乗ってしまい、気がつくと見知らぬ街にぽつんと立っている。仕方なく、朝から昔の映画を3本立上映している名画座に入り、夕方まで映画を見て過ごすのである。

他人が怖く、公衆トイレに入れない等の精神症状が出、慢性的な睡眠障害にも見舞われ、睡眠時間1日15分とかいう状態に苦しんだ。人間、1日15分睡眠でもかなり生きられる。

いつ死のうか、どうやって死のうか…ばかり考える、地獄のような日々が続いた。人間関係も最悪で、もはやプライドどころではない地点に追い込まれた。苦痛を紛らすためにアルコールに逃避し、ますます精神がおかしくなっていった。

今から考えれば、ショッカーの改造手術を受け、高学歴バカと化したことの反動だろう。精神的にバランスの取れた、自然体の状態を維持できなくなっていたのである。

 

このうつ状態「完全に治った」と言えるようになるまで、じつに7年半くらいかかった。20代の貴重な数年を、Q氏はこうやってドブに捨てたわけである。うつ時代のことは、全体的に記憶がボヤーッとしていて、いまだによく覚えていない。食事をしても味がせず、歩いても空中を踏みしめているようなおかしな感覚で、朝起きると、決まって頭に金属のヘルメットをかぶせられているような重苦しさを感じた。

 

一進一退を繰り返していたうつ状態がどうして治ったと分かったのかというと、或る日、冬の寝床で素足が布団の生地と擦れ合ったときに、幼い頃に感じたような何とも言えぬ幸福な感触が戻ってきたからである。ああ、人間らしい感覚が戻ってきた、と涙が出てきたのを記憶している。

Q氏が精神のバランスを取り戻せたのは、このままでは駄目になる、と慌てて就職した先のサラリーマン生活が、人間関係のよいリハビリになったからだと思う。傲慢になって他人をソフトに見下しており、入社当初は飲み会でビールを注いで回ることさえできなかったQ氏だが、同僚との飲み会やランチなどを通じ、和気あいあいとした雰囲気の中で次第に癒やされていった。もうあまり肩ひじ張らなくていい…そう思うと、どんどん精神の健康を取り戻していけたのである。

 

教訓。高学歴バカになったらなったで、それは精神的に非常につらい道だ。多くの場合、人間関係に心休まる暇がなく、確実に心を病む。幸いなことに、Q氏は高学歴バカの洗脳から脱して以後、一度も精神の根本的なバランスを崩したことはない。春は花の咲くのを楽しみ、冬は夜空の星の輝きを楽しむというような、けっこう健康な生活を続けていられる。

 

高学歴バカは周囲の迷惑であるだけでなく、本人たちにとっても、高学歴バカであり続けること自体が、おそらく大変なストレスなのだと思う。

 

医学部受験生の皆さんにも参考になれば幸いである。