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共通テスト国語2023 (14)──漢文②_本文の概要2

共通テスト2023国語の解説も大詰め。第4問(漢文)のつづきである。

前回書き下し文を示したので、今回はそれに従って現代語訳してみよう。

 

【予想問題】

問題。昔から、君主たるもの、臣下として賢者を求めようと考えない者はおらず、賢者たるもの、君主の役に立ちたいと考えない者はいなかった。しかしながら、両者が互いにうまく出会って結びつくことがないのは、どういう理由からか。今、賢者を登用したいと考えたとすると、その方法をどうすればよいか。

 

【模擬答案】

ご下問によりますと、そもそも君主たるもの、臣下として賢者を求めようと考えない者はおらず、賢者たるもの、君主の役に立ちたいと考えない者はいなかったということでございます。その通りではございますが、君主は賢者を登用しようとしても適切な人材を得ることができず、臣下はお役に立ちたいと思っても由、豈不以貴賤相懸、朝野相隔、堂遠於千里、門深於九重。

わたくしが思いますに、賢者を探し出し、方法はございます。そのやり方と申しますのは、求める人材それぞれについて似たような種類の人間を探し出し、その仲間に推薦させるだけのことでございます。卑近なたとえをいたしますれば、ちょうど糸と矢のようなものでございます。糸は針を使ってようやく通すことができ、矢は弓弦があって初めて飛ばせます。糸や矢があったとしても、そもそも針も弓もなければ、自分からやって来ようとしている者を探してみても、採用することができません。似たような人間たちを使うと申しますのは、思いますに、賢い人間にも愚かな人間にもそれぞれ出自があり、善い人間にも悪い人間にも仲間がいて、もし似たような人間をたよりに探せば、[X]以類至。これはまた、ちょうど水が湿ったところに流れ、火が乾いたところに燃え広がるというのが、自然之理也。

※「賢愚貫くことあり」がやや意味不明瞭。「貫」は「本貫」など「故郷、郷土」の意味の可能性があるため「それぞれ出自がある」と訳してみた。

 

わたくしQ氏は漢文が専門ではないためかなりの意訳だが、およそこのような意味だとして、あまり外れてはいないだろう。「賢愚貫くことあり」など、部分的な意味が分からなくとも、その他の部分の文脈の整合性を見ながら注意深く解釈していけば、全体の意味はつかめるものである。古文と同じく、漢文でも文脈主義が第1に採用すべき考え方である。

 

さて、こう訳したところで、まだ赤字の部分が白文ないしは返り点のみの状態である。このように白文が出てくるともうお手上げという受験生は多いが、

〇漢文の語順は英語と似ており、「SVO」と「前置詞+名詞」が原則(ただし修飾語は被修飾語の前に置かれる)

という大原則が分かっていれば、白文解読の手がかりもつかめてくるものである。

 

上記の白文もしくは返り点のみの部分のうち、

 

①「無由」は「由無(な)く」。「由」は「よし」だろうが、何と読むのか分からなくても意味は推測できる。

②「豈不以貴賤相懸、朝野相隔、堂遠於千里、門深於九重。」は「豈(あ)に~ならんや」が再読文字、「不以」は「以(もっ)てならず」「貴(S)相懸(V)+ 朝野(S)相隔(V)「堂(S)(V)(前置詞)千里(名詞)+ 門(S)(V)(前置詞)九重(名詞)がそれぞれ対句。

③「弁賢」は「賢を弁(べん)ずる」などでよさそうだ。

④「[X]以類至」は「以類」が前置詞+名詞で「類を以て」、「至」はVで「至る」

⑤「自然之理也。」は割とそのまんま「自然の理なり」

※漢文の述語は必ずしも動詞とは限らないのだが、英語と比較するために述語をVで示した。

と見てくると、一番分かりにくいのは②で、それ以外はあまり大したことはないと言えるのではないだろうか。

②の訓読の仕方が分からない、という人は多いかもしれないが、対句の構造に気づき、再読文字に注意して漢文の「ありうる語順」に沿った読み方をすれば、

「豈(あ)に貴賤相懸(何と訓読するか分からないが、懸隔の懸)し、朝野相隔たり、堂千里よりも遠く、門九重よりも深きを以てならざらんや」

という形で、全体が何となく読めてしまう。まず漢文の語順を考えて、とりあえず単語の意味が分からなくとも、英文解釈のように文の構造だけ理解できるようにするというのが、学習の目標である。

 

白文を「何となく」読むには、なるべく意味の分からない漢字が残らないよう、漢字の意味を多く仕入れておく必要がある。その場合、

(1) 漢字の訓読みをどれだけ知っているか(つまり、漢字の音だけでなく、意味がどれだけ分かるか)

(2) その漢字を使った熟語をどれだけ知っているか

がキーになる。結局は語彙力が勝負ということになるわけだ。

上の②で言えば「懸」を何と訓読みするか分からない場合にも、「懸隔」(かけ離れていること、へだたり)という熟語を知っていれば、「かけ離れている」の意味だろうと想像できるし、「朝野」「朝廷」「下野・在野・野党」などの熟語を知っていれば「宮廷と世間」の意味だな、とピンとくる。そうなると次に出てくる「堂」「門」宮廷の建物や門を指す、ということも推測できるのではないだろうか。

恐らく、若者の間でこのような漢字に関する語彙力が衰えてきているために、漢文を苦手とする受験生が増えてきているのだろう。かなり長時間をかけて進んできた問題だから、すぐには解決できないが、受験生が改めて漢字の意味を知ることの大切さに思い至ってくれるとよいと思う。

 

さて、そのような推理を経て上記②を自己流に訳してみると、およそ、

「貴人と賤しい身分の者とが互いにかけ離れ、宮廷と庶民の世とが互いに隔たり、宮廷の建物は千里よりも遠くなってしまい、門は九重にめぐらされた以上に深く閉ざされてしまっていることが理由にほかなりません」

という内容になるのではないだろうか。

実際に設問で書き下し文の選択肢を見る前に、あらかた自分で訳せるようにしておくと、正解を探し出すのが早くなる。

 

では次回、選択肢をひとつずつ検討しよう。