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共通テスト国語2023 (15)──漢文③_選択肢の検討1

日曜夕方の国民的アニメ『サザエさん』の「タラちゃん」役の声優さんである貴家堂子(さすが たかこ)さんの87歳での訃報に際し、或るスポーツ新聞は「タラちゃん 逝く」という見出しを掲げた。

タラちゃんは永遠の幼児であり、決して「逝か」ないのだから、スポーツ新聞のこの見出しは、一見した人に「タラちゃんは逝かないだろ!」というゾワゾワした違和感を与えつつ、記事に注目させる効果を担っているわけである。

あざといといえばあざとい手法だが、「タラちゃん 逝く」という見出しには、詩の本質的な手法である「異化(異化効果)」が用いられている。現代文の詩や言語に関する話でも、よく出てくるかもしれない。

「タラちゃん 逝く」の見出しによって、声の主である貴家さんの肉体と声帯が滅びても、タラちゃんという存在は永遠に滅びない、という逆説的な事実が、かえって炙り出されるわけだ。タラちゃんは永遠に3才の幼児として、これからも放送が続く限り「タラちゃんですゥ」と言い続けるのである。

タラちゃんは不死の存在であり、肉体をもたぬ亡霊である。

その証拠に、かつてタラちゃんの年齢だったわたくしQ氏も、気がつけば、いつの間にか波平さんの年齢になっている。Q氏の人生を返せ、と言いたくなる瞬間である。Q氏がこの間、さまざまな人生の波瀾に遭遇するのを尻目に、タラちゃんは毎週日曜夕方6時半に「ママ~、おなか空いたですゥ」とか、鼻声で言い続けてきたのである(むかしは火曜夜にも、再放送エピソードをまとめた『サザエさん』を放送していた──すなわちサザエさんは週2のヘビーローテーションで放送されていた──のを、医学部受験生諸君はご存じだろうか。知っている必要はまったくないので安心されたい。火曜日のサザエさんを知っており、しかもその主題歌を歌えたりすると、間違いなく歳バレしてしまう)

かなり、というか根本的にどうでもいい話であった。

貴家堂子さんのご冥福をお祈りいたします。53年間ありがとうございました。

※53年間というと、今年の共通テスト古文の出題にある、摂政・関白を歴任した藤原頼通の長期政権の年数に近い。藤原頼通も、貴家堂子さんのタラちゃんくらいの長期にわたり、世に君臨していたのである。実感で知る日本史シリーズ。現在の議院内閣制における内閣総理大臣には、そんな長期政権はもちろん不可能だ。

 

さて、共通テスト2023国語・第4問(漢文)の選択肢を検討しよう。

総体的に、今年の漢文は平易であった。現代文をこれでもかとばかり難しくして、古文と漢文で多少手心を加えたという感覚である。現代文に足をすくわれて、古文と漢文に時間が割けなかった受験生は残念だった。

Q氏は常に「現代文、特に評論を取らないと差がつかないから、古文漢文、特に古文が難しい年を見越して、問題は現代文から着手すべきだ」と申し上げているが、今年は評論で地獄を見た受験生が、時間内に漢文までやり切れずに終わったケースは出ているのではないかと思う。評論をしっかり取るために評論を先にやるべし、というセオリーは今後も動かさない方がよい(ということは、ある程度難しい評論にも対応できるようにしておいた方がよい)と思うのだが、今年みたいに漢文が呆気ないと、古文漢文を先に片づけてから現代文とじっくり取り組んだ方が、結果的には良かった…という感想を持つ人も増えるだろう。

が、もし古文漢文から先に着手すると、それらが平易な問題だったとしても、現代文を先にやった残り時間で片づける場合以上に、時間をかけすぎてしまうのが人情である。そうなると、小説が取り組みやすい問題だった時に、小説で時間切れになって「もったいなかった」という話になる可能性が高い。

結局、可能な限り速く正確に読む訓練を積んで、問題の処理能力を高めるしか手がないように思える。或いは、合否判定に共通テストの比率が低ければ、思い切って「捨て問」を決めておくかである。

その辺の判断は個別のケースごとになると思うから、来年の受験生はやはり「共通テスト国語は現代文→古文漢文の順でやる」つもりで練習をした方がよいだろう。それが最大公約数的な解答順序であることは間違いないと思う。

結局、評論から逃げてはいけないということでしょうね。

 

さて、では漢文2023の選択肢の検討である。

 

問1。こういう語句問題は、

(1)文脈からの判断力

(2)漢字・語句の知識

の両方、或いはどちらか一方を問うている場合が多い。古文に比べて漢字や熟語の辞書的な意味を問う例が多く、まず(1)のように文脈に照らして合うものを選び出すというセンスは必要だが、(2)のように語句の丸暗記的な意味をストレートに聞いてくる場合もある。

純粋に(2)のパターンの問題では、問われた漢字や熟語、定型的な訓読などを知らなければ解答できないので、その場合はいさぎよく「捨て問」とする古文漢文で満点を阻むのはいずれも問1であることが多いから、問1に難しいものが出たら、満点を諦めてスパッと捨てる決断も必要だ。どのみち、共通テスト国語で満点は取りにくい。

本問では(ア)文脈から①「由」「よし」だろうが、読めなかったとしても、純粋な文脈からの推測でよい。

(イ)の訓読は慣用的な「おもへらく」で、覚えていないとだめ。意味はである。読み方が分からず、文脈で判断して正解した人もいるだろうが、これは基本的な語句の知識だから、丸暗記していることを前提とした出題である。

(ウ)「弁」を含んだ二字熟語を参照して、本文中の「弁」の意味を推測する問題。このように、文中の単一の漢字の意味が分からない場合、その漢字を使った熟語の意味から推測していくことは、初見の漢文を読みこなすには絶対的に必要な手法だ。漢文が苦手な受験生は、おそらく漢字熟語の知識が乏しく、この手法を使えていないのだろう。本文の該当箇所では「賢人を見分け(識別し)」というような意味がふさわしそうだから、「弁」「弁(わきま)える」の意味で使われている⑤の「弁別するには」が正解となるだろう。

 

問2は、きちんと返り点に従って訓読できればあまり難しくないと思う。前半の「その賢を求むる」「賢い人を求める」と読めることから、②「賢者を顧問にする」か③「賢者を登用する」か④「賢者の意見を聞く」がふさわしく、この段階で3択となるが、後半の「その用を効(いた)す」は、この中では③「役に立つ」しかないだろう。後半は⑤「信用される」がよいと思う人もいるかもしれないが、⑤の前半「称賛を得る」はダメダメだから、前半・後半ともに意味が通る正解は③しかなく、文脈を考えれば比較的平易である。

 

問3のような白文問題がいちばん嫌いだという受験生が多いだろうが、慣れれば何も怖くない。前のエントリーで述べたように、漢文の語順が根幹部分は英語と類似していることを利用して、まず、頭の中である程度訳してみるのである。少なくともどれがS、どれがV、どれがOだな…というように、英文解釈のように解析してみる。解析してから、選択肢の返り点の打ち方と、書き下し文を見るのである。

自分であらかじめ大まかに訳せていたら、選択肢の書き下し文の中にそれと一致するものが見つかるだろう。その選択肢が正解である可能性が非常に高いことになるから、念のため、あとの選択肢の間違っているところを探す。他の選択肢がすべてダメだと分かったら、最初に選んだ選択肢を正解とする。

もし「漢文解釈」に自信がなければ、まず選択肢の書き下し文をひとつひとつ口語に訳しながら、本文の該当部分に当てはめてみる。それでいちばんよく意味が通じる書き下し文を含む選択肢が正解である可能性が高い。そして、念のため他の選択肢の間違いをチェックし、自分が選んだ書き下し文と選択肢の返り点とが矛盾していないかも確認する。他の選択肢がおかしく、自分が選んだ書き下し文と返り点との間に矛盾がなければ、その選択肢が正解である。本問では⑤が正解だ。

白文問題では、選択肢の返り点の打ち方と、書き下し文が合っていないものが交じっていることがある。そういう選択肢は最初からダメ選択肢なのだから、気づいた段階でハネておくべきである。今回の選択肢には、返り点と書き下し文の不一致は含まれていないが、たまにそういう例がある。

白文問題では、単に漢文の語順が英語と似ている…だけの知識では対応できない「再読文字」の知識が、ほぼ必ず問われる。再読文字は覚えていないと訓読できないので、再読文字だけは知識として復習し、覚えないといけない。今回は反語「豈(あ)に~ならんや」が問われた。これと「不以(もってならず)とを組み合わせて「豈に~もってならずや」(~の理由からではないでしょうか。いや、その理由からです)と読ませた。

 

中途半端だが、次回につづく。