前回からまだまだ続く。受験生の無気力の背景にある、親子関係の問題の話である。
この種の話は非常にシビアなケースを含むので、受験ブログでむやみに公開する内容ではないかもしれない。
だが、これを読んでくれている医学部受験生の中に、親御さんからの過剰な干渉や進路の押しつけなど、身近だが深刻な人間関係の問題で悩んでいて、結果として「どうしても、どうがんばってもヤル気が出ない」人がいたら、
「ヤル気が出ない自分を責めないで」と伝えたい。
あなたは、優しい子である。身近な他者との思うに任せぬ関係に悩みながら、それを相手のせいにすることなく、自分の一身に引き受け、そして苦しんでいる。
イエス・キリストみたいな人ではないか。冗談ではなしに。
あなたに必要なのは、なお一層絶望的に、自分を鞭打つことではない。
自分を許してあげることだ。
努力できないのは、単に今は努力できないだけの話であって、あなたが根本からダメな人間だからではない。
が、このまま、割り箸を曲げるように自分を曲げ続けていると、いつか必ず、あなたは根本からダメになる。真ん中からポッキリ折れ、元に戻れなくなってしまう。
そうならないように、今は布団に入ろう。何も考えないで寝てみよう。
あなたは考えていないのではなく、考えすぎなのである。
…と、何となくカッコつけて言ってはみたものの、結局「ヤル気がまったく出ない」受験生に、こうすればよいという単一の処方箋はない。
例えば自分の本意ではないのに医学部受験に駆り立てられている、とかならば、一度ゲームからリタイアしてみるのも手かもしれない。回転木馬からは下りた方がいいこともある。
ただ、安易なリタイアは支配的な親御さんが許さない…というケースが大部分のようだから、お子さんとしてはたぶん、部屋にこもって鍵をかけてしまうしか対策を思いつかないだろう。それはそれで、悲しいことだ。
以前ならば、「家出」という最終手段があった。むかしの人にも「この問題」はあったので、最後はやむを得ず家を逃げ出していたのである。
が、現在は世の中が家出人を受け入れないし、よほどのバイタリティの持ち主でない限り、家出して生きていくことは難しいだろう。それとも、やってみるか?
わたくしQ氏の昔の知人にも、才能に恵まれ、努力もして、実家の個人病院を継ぐべく旧帝大医学部に入ったが、それは結局自分の意思からではなく、親御さんからの強いプレッシャーによるものだった…という人がいた。
医学部在学中に、みずから命を絶ってしまった。
Q氏は、亡くなるしばらく前に、かれが冗談めかして、
「じつは医者にはなりたくないんですよ。政治や経済の道に進みたいんです。Q氏さんならどうします?」
と相談してきたのを、今でもありありと覚えている。
世間的には旧帝大医学部生というだけでじゅうぶん成功しているのだから、なに、ぜいたく言ってるんだよ…くらいに聞き流してしまった。
が、後になって、そのとき真剣に相談に乗らなかったことを悔やんだ。Q氏にとってのトラウマである。
政治や経済の道に進めよ。進もうと決めさえすれば簡単だろう。応援するよ。
Q氏自身は文学部の出であり、文系科目で医学部合格者の指導経験はそれなりに積んでいるが、自ら医学部受験や医大生生活を経験していない弱みがある。
そして、医学部受験というと、決まって亡き知人のことを思い出し、今でもやや気持ちがふさぐ。
そんなに仲のよい知人ではなかったが、おそらく一生忘れることはない。
医学部受験というのは、ある人々にとっては、そんな深刻さを含んでいると思う。
受験生のまわりの方々にも、受験生自身にも、
…受験生を責めないで!
とだけ言っておきたい。それ以上、この問題についてQ氏の答えは出ない。