オンライン医学部予備校

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持続可能なスタディ・ライフ

下りのエスカレーターを駆け上がる。受験勉強やダイエットは、神をも恐れぬ不自然な試みなのである。かつてバベルの塔を築いた人々のように、神の怒りを買い、やがて、塔がたちまち跡形もなく崩れ去るのを目の当たりにすることになるかもしれない。成績低迷。体重激増。

重力に逆らって天を目指そうとするイカロスは、まばゆすぎる陽の光に翼を灼かれ、真っ逆さまに海のかなたに堕ちてゆく。

それが、例えば浪人生ならば、昨年のあなただったのかもしれない。

 

…じゃあ、どうするの? という話である。

心配するな…と完全に請け合うことはできないが、皆さん、そもそも前回提出した論理的な前提①②そのものを、まず疑ってかかる必要があるのではないか。わたくしQ氏から、まずそう指摘したい。

 

①下がらずにすむよう、永遠にエスカレーターを駆け上がり続ける。

②下がることを受け入れ、下がっても別に気にしない。

 

どちらも極端な立場であることを見抜こう。だまされてはいけない。「相手が極端な立場を強調していることに気づく」ことは、相手の手の内を見破り、議論をうまく乗り切るコツのひとつである。

極端な前提を採用して実績を挙げ続けることは、並みの体力・精神力しかない人間には難しい、あるいはまったく不可能なのだから、過激な物言いに対しては、マユにツバをつける習慣を身につけたい。

達成できない目標を立てないこと。これは、何をやるにも絶対に必要な考え方だ。

 

おそらく、必要なのは「①と②の間にちょうどよい妥協点を見つけ出す」こと、すなわち問題への最適解を見つけ出すことである。

そのために、①と②、それぞれの案を修正してみよう。

 

①´:精神的・肉体的負担を最小にしつつ、エスカレーターを上がり続けられる方法を考え、採用する。

②´:たまには下がってもよいこととし、下がったら下がったで気にせず、ほどよいところで再び上がり始める。

 

「気合いだ! 気合い!」と昭和の体育会ノリを振り回してもいいが、意外に成果が挙がらなかったりするし、負担も大きい。最小限度の精神的・肉体的負担は避けられないとしても、無理なく続けられる、すなわち持続可能サステナブルな方法を開発しないと、現代ではとても生き残っていけないだろう。

気合いは確かに必要だが、それ以上に、合理的に考えられる人が生き残る世の中である。こういうところでこそ、考えてみることにしよう。ライオンがやっと狩りに出る瞬間。

 

このうち、まず上記の②´、つまり「下がることを気にせず、下がってもまた上がり始める」というのも、どん底から再生するためには絶対に必要な心がけだ。近年は、このような立ち直る力レジリエンス(resilience, 回復力の意)などという。

あなたが浪人生なら、一度はどん底を見ているわけだから、レジリエンスを身につけやすい立場にいるだろう。

 

怖いのは失敗の経験に乏しい、いわゆるエリート高の(ついでに成績上位などの)現役生である。今までも、失敗を避けるために全力を尽くしてきたのだろうが、その癖が抜けず、つねに失敗を極度に恐れ、失敗を回避することにばかり気が向いてしまうことがある(もちろん成育歴や個人の性格によって、失敗への態度も大きく異なるが)。そのため、肝心の勉強の内容に集中できない…などという「失敗」を招いてしまいやすい。どんなに強い力士にも、必ず一度は敗れる時が来るのだが。

 

今まで大きな失敗を経験したことがない人は、失敗はちゃんと「経験値」になってくれるものであり、過度に恐れる必要はないのだと肝に銘じたい。いくさ場での名誉の負傷による傷跡をつけた侍と、ひとつも傷跡がないお肌ツルツルの侍、あなたならどちらが強そうだと判断するか。

いざ失敗したところで、意外に痛くも痒くもないものだし、かえって精神的にスッキリし、失敗への対処法が身につくものだ。

経験しないうちはものすごく恐ろしく感じられるものだが、ほとんどの失敗はあまり大したものではない。「命さえあれば丸もうけ」というのは真実だ。失敗しないことは、皆さんの今後の人生を考えると、あまりよいことではない。心の中で、いざ失敗した時のシミュレーションだけはしておこう。想像つかないかもしれないけれど。

 

どん底に沈んだまま浮上できないのは困るが、どん底に落ちたとしても、またゆっくり立ち直ればいいや…というような、多少ユルい心がまえ。これは、受験勉強を成功に導くために絶対に必要なものである。

失敗を恐れない…というより、失敗をあらかじめ予想しておき、完璧主義をやめ、三日坊主を恐れないこと。点をつなげると線になるように、三日坊主も、繰り返せば立派な継続となる。

 

口で言っても実践するのはなかなか難しい内容だと思うが、以上、まず「下がったときの取り返し方」はおぼろげに見えてきたことにしておこう。

では上記①´の「負担を最小限にとどめつつ上がる方法」はどうか。下がったところから上がるための力も必要だが、上がる勢いを維持するための力はどう身につければよいのか。

 

紙数の関係で、そのへんの話は次週に回したい。が、たぶんヒントになるのは「考えないヒト」という、人間の例の特性である。