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国語記述問題の調理法④──「オーソドックス」の快楽・名古屋大学2020

さて、「医学部2次試験国語攻略」企画、案の定、わたくしQ氏の更新ペースがぜんぜん間に合っていない。この種の原稿はストックの量産が非常に難しく、Q氏も苦慮している。受験生の皆さんのお役に立てず申し訳ない気もするが、皆さんにエールを送りつつ、ちょこっと入試国語のヒントをお送りしよう。

本日は東からついに日本の真ん中に近い、名古屋大学国語・現代文を取り上げる。縁起をかついで、味噌カツでも食べながら読んで張作霖! 読んでチョー・ヨンピル(←古い。受験生分かるかな。チョー・ヨンピル。『釜山港へ帰れ』などで知られる、K-POPの大先達である。)

 

さて名大の国語だが、理学部だけでなく医学部の国語も現代文のみになったのは2021年入試から。古文漢文がなくなったことでホッとしている医学部受験生も多いだろう。記述量は50字前後100字前後の組合せが多く、選択肢問題も併用されるが、現代文のみになってからの2年間は、特に出題形式が固定していない。

 

出題される文章は、受験生が不案内な特殊分野に関する解説が多い。Q氏が勝手な不満を述べるとすれば、医学部入試の国語が現代文のみになってから、出題文が説明的なもの主体になり、いささか「つまらなくなった」気がする。

出題形式はどうあれ、名古屋城金のシャチホコとは印象が異なって、内容は非常にオーソドックスな設問である。堅実で実利的な発想を好むという名古屋の気風を反映している──のかどうかは知らないが、とにかく正攻法で「本文のまとめ」を聞いてくるから、正攻法で「まとめ」るしかない。読んで考えることはもちろん必要だが、読み取った内容をそのままキチンと説明できるかどうかを問う設問の方が多いから、名大の場合は、山形大でも使った「本文中の語句を的確にコラージュする」手法が有効だろう。

 

設問はオーソドックスで、出題文の分量も4,000字前後とあまり多くないとはいえ、年によっては問題数が多く、記述量も増える可能性がある。どの大学もそうではあるが、名大医学部受験生は、45分という枠内であまり悠長にやっていると、時間切れになってしまうかもしれない。

医学部での現行の出題形式はまだ2年しか経過していないため、記述式と選択式の比率等は今年も変わる可能性があるが、記述の問題数が多めの場合がありうることは覚悟しておこう。記述式の中には字数指定による抜き出し問題も含まれ、すべての答案を自分で再構成しなければならないわけでもない。高度な高校入試問題みたいであり、あらゆる点で親切なのであるが、時間切れを防ぐために、出題文を注意深く読んだら、おもむろに記述問題に着手し、とにかく書き始めるのが大切なことは改めて言うまでもないだろう。

 

記述問題として、文中で示されている二項対立に基づいて、2つの事柄を対比しながらまとめることを要求する問題がよく出題される。二項の対立軸を見出しながら読み解いていく方法は評論文読解の基本中の基本だから、名大の問題はここでも大変にオーソドックス。二項対立を前提として、対比的な2つの抜き出しを要求する設問もある。「対比」が好きなのが名大国語だと言えるかもしれない。

抜き出し以外の記述問題も字数はしっかり指定されているから、可能な限り下書きを作成した方が、答案に自信が持てそうである。

 

まだ古文と漢文があった時代の問題になるが、2020年の現代文(犬飼裕一『歴史にこだわる社会学』)を取り上げよう。この文章も二項の対立軸を段階的に提示しながら、歴史社会学という新しい学問分野の可能性を述べている、読みやすい割に、受験生諸君にとっては目新しい問題提起と映るのではないか。

 

医学部受験生にとっては社会学という学問自体、縁遠く感じられるかもしれないし、関心が薄いだけでなく、そういう分野があるということさえ知らない人もいるかもしれない。

が、名大の出題意図は「自分の知らない領域・関心の薄い領域についての文章であっても客観的に読め、内容を的確に把握できるかどうか」を試すことにある。よく「自分の関心がある文章は理解できるが、興味のない話題についての文章はまったく理解できず、試験でも得点できない」という受験生がいるが、国語はそれではだめなのである。中心的な話題に関心があろうがなかろうが、暗号解読のようにして客観的に内容を把握できること。試験で確かめられているのは、受験生のそういう能力である。名大の問題はその要求が比較的ハッキリしている。

 

本問は議論の各段階で二項対立が明確に示されているため、しっかり読める受験生にとっては親切で解答しやすいだろう。問題もステップアップ式に配置されており、大学の親切が身に沁みるようなありがたい問題である。

だから、名大医学部受験生に対してQ氏が何か言うとすれば、「この国語は割に親切だから、ガッツリ取るつもりで行け」ということである。相手の親切につけ込んで、問題の懐に入りまくってガツガツ取りに行こう。キャベツの葉に付く青虫のように、文章をモリモリ読んでモリモリ記述するのだ。

 

ここでは問3を検討しよう。問3傍線部②「社会科学が持っている両義性、二面性」についての小問2つからなるが、いずれも地獄のように答えにくくはない。「両義性」の用語の意味は大丈夫かな。「二面性」と言い換えてくれているから分かるだろう。つくづく親切な文章だ。

 

問3 (1)「『平等』という考え方の場合について」という問題の指示をしっかり守ることである。本文第7段落あたりから、巨大組織や大国を志向し、人間を「均質」な存在と見る考え方が、近代の「平等」思想に流れ込んだ結果、「平等」が「均質」に置き換えられる形で思想のゆがみが生じた──という趣旨の議論が続く。

社会学「両義性」を述べる前提として、

①人間は「本来個性的で、あらゆる意味で『平等』ではない」こと(本文第10段落)

②社会科学は、①のような人間を「無理やり平板化し、平均化し」「人々を『平等』に隷属化する発想と直接結び付いてしまう」こと(同上)

を押さえる必要がある。この①②を言い換えた表現は第11段落、12段落にもあるが、問題の指示に「具体的に」説明せよとあるから、第11段落の教育に関する説明に使われている具体的な言い換え表現を、うまく流用してはどうだろう。

まず下書きを作成してから、まとめてみよう。

社会科学が用いた「平等」の語が、本来は権力やイデオロギーからの人間の解放を意味していたにもかかわらず、巨大組織や国家の中で人間を均質化する方向に働き、競争を通じて隷属的で量産品のような人員を作り出す結果になっている、矛盾した有り様。(116字)

「平等」が、本来は「解放の論理」であったということには、結果的に人間の均質化・平板化を引き起こしたという事態との対比で、ちゃんと触れた方がよさそうだ。問題は何からの解放だったかということである。こういう点は、ツッコミが入らないようにはっきりさせた方がいいだろう。「権力(関係)」「イデオロギーの語が改めて見つかれば、これが使えると思う。

「どのような有り様」か聞かれているのだから、「有り様」それに準じる体言で答案を結びたい。

また、Q氏は「平等」の語の用法の変化を、変化の前後で対比的に示す必要から、あえて「矛盾した有り様」「矛盾」の語を使ってまとめてみた。

「組織」「国家」「隷属」などの語を適切な場所に散りばめ、論旨をはっきりさせるよう努めてみる。

これも、これくらい書けば、まあ基礎点ぐらいはもらえるだろう。

 

問3 (2)は抜き出しだが、傍線部②の直後「問題の所在を指摘してその対策を暗示しながら、同時に新たな問題を自ら作り出している」に誘導されやすい。が、この部分は具体性を欠き、冒頭の「一方で、」を削ってようやく40字だから「最も適切」とはいかないかもしれない。引っかけである。もうちょっと先に行くと、第13段落冒頭に露骨に「問題は…」で始まる一文が見つかり、この「特定の視点、特定の価値観からのみ『社会』のあらゆる問題を明らかにしようとする思考」がどうやら正解である。

 

名大医学部受験生諸君、文中に2つの事項の「対比」「対立」をしっかり読み込み、記述の答案には対比を強調することを意識しよう。オーソドックスな設問には、メリハリをつけた答案でキッチリ答えたい。

 

本番での諸君の健闘を祈る!