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国語記述問題の調理法②──「満点を狙わない」部分点解答法・山形大学2022

医学部受験生の皆さん、おつかれさま。国公立前期が迫ってまいりましたな。いきなり関係ないようだが、緊張する時にはぬるめの湯で長めの入浴がよいぞ。バスソルトとか入れて。あと、同じ姿勢での勉強を続けていると、若い人でも身体の各所に凝りが生じて、頭の働きが鈍くなる。ストレッチ、セルフマッサージなどを適度に取り入れよう。特に首から肩にかけての筋肉を努めてほぐすようにしたい。

さて、土壇場でわたくしQ氏の更新リズムが乱れたため、肝心の2次国語対策がスーパー駆け足になるが、ネットにはほかにもたくさんの情報がある。Q氏のレシピも参照情報のひとつとして、役に立つと思ったところを召し上がっていただきたい。

 

さて、山形大医学部前期2022・国語(一)(若林幹夫「なめらかで均質な空間が顕在化し始めた時代」)である。

 

まず、文章全体の言わんとしていることをきちんと汲み取らなければならない。この文章は「同時代論」の一種であり、ジャンルとしてはいわゆる現代思想のテキストと呼べる。1980年代以降の日本の風景・空間のありようの変化を考察しているが、そこに、単なる外観の改変にとどまらぬ「思想」もしくは「思潮」の変化を見ている。こういう文章は時代のドキュメントとしても大変重要だし、時代の変化を思想的に跡づけようとしている点で、自分たちの現在の「立ち位置」を非常に明確にしてくれる。新書版などでよく出版されているから、折に触れ読んでみると「いま、自分たちがどこにいるのか」よく分かる。

 

まず問5。傍線部B「高速道路や新幹線とは別の形でなめらか均質なもの」の説明である。本文によれば、八〇年代以降に日本中に出現した「なめらかで均質な景観(空間)」は、

 

①高速道路と新幹線によって国土的な規模で実現した「臭いも物音もなく、なめらかに連続する移動可能な景観」

②ショッピングセンターやリゾート施設、ニュータウン開発等の大規模な建築・土木事業や、童話風の外観を持つ戸建て住宅の普及(=「国土の改造」)によって実現した「なめらかで均質な景観」

 

が相まって形成されたものだと読める。冒頭に述べられている、「ウォークマン(現在の受験生は知らないのではないかと思うが、携帯型の音楽再生装置だというのは本文から読み取れる)」の出現によって現れたサウンドスケープは、上記①②に覆い重なる形で「なめらかで均質な景観経験」を生み出したわけだから、問5の答えにはふさわしくない。問5の答えには、上の②の内容をまとめて書けばよいということになるだろう。本文の論理的な流れを追った上で、「本文のどこが使えるのか」を見定めるのに、まずはエネルギーを注ごう。

 

上記②の内容の説明は、傍線部Bを含む形式段落の2つ前の段落から始まっているが、前2つの段落の説明は具体的な事例の羅列であり、傍線部Bの内容をまとめてくれるような表現は見当たらない。傍線部Bを含む形式段落の次の段落は、もう話題が変わっている。

だから結局、傍線部Bを含む形式段落の内容をまとめればよいことになる。なおかつ②の場合の「なめらか」「均質」の説明がほどこされている箇所を探すと、傍線部Bの直後が、解答に用いる部分としていちばんふさわしいことが分かる。

 

比較的親切な問題ではあるが、本文の「流れ」が読み取れなければ、どの場所を使って解答したらよいのか見当がつかなくなる。まずは慌てず、じっくり読んで論旨を追い、頭の中で論理的な流れをある程度チャート化し、設問に対する答えとして最もふさわしい箇所を探す。探せたら、その部分をいかに要領よく短文にまとめるか、語句を取捨選択するのである。

傍線部Bの直後の部分では「なめらか」の印象の起源については、少し説明が長い。土地や建築物・構造物の特徴がえんえん述べられているのだが、その部分のキーワードを抜き出せば、いちばん使えるのは「平滑さ」「幾何学性」ということになりそうだ。さらにファンシー調の「デザイン」の語句も使えそうだが、字数が足りなくなれば、デザインは幾何学性」で代表させてもよいかもしれない。

 

「均質」の説明はより短いから、使える語句は絞られる。上記の建築・土木事業を支えた「産業化された土木や建築の技術とデザイン」は、かなり使えそうな表現だ。「産業化」されれば物事は規格化され、均一になるのだから、「均質」の起源には「産業化」の語句を使っても、論理的におかしくはなさそうだ。

 

そこで、使う語句を並べながら文を作ってみる。この場合は「なめらかで均質な『もの』とは何かを最終的に答えなければならないのだから、解答の最後に名詞を持ってこないとまとまらない。使う名詞は「景観」でまとまるのではないか。

 

(A)「なめらかさ」の説明:新たに造成された土地とそこに作られた建築物や構造物が、区画の仕方やデザイン、素材など、あらゆる点で平滑さと幾何学性を特徴としている点。

(B)「均質さ」の説明:産業化された土木・建築技術とデザインによって作られた景観が、似たような様相を持ち、同じような印象を与えること。

 

とりあえず、この(A)(B)をつないで「景観」で終わる形にまとめてみよう。青字が(A)中の語句、赤字が(B)中の語句である。

 

産業化された土木・建築技術とデザインによって、区画の仕方や素材などについても平滑さと幾何学性を特徴とし、新たに造成された土地とそこに作られた建築物や構造物によって作られた、似たような様相を持ち、同じような印象を与える景観。(111字)

 

まだまだ長い。語句のダブりもあるし、「全国規模で作られた」というような語句も必要だろう。そこで削る。試験会場ではまず下書きを繰り返し、語句を削ったり加えたりしながら答案を作り、最後に清書する。

 

産業化された技術とデザインによって日本全国に作られた、平滑さや幾何学を特徴とする造成地と建築物からなる、似たような様相を持ち、同じような印象を与える景観(78字)

 

いったんここまで縮めれば、あとは少し情報を加えることができる。この問題で迷うのは、上記のなめらかで均質な景観が、「土地それぞれの自然と歴史と文化を物理的にも社会的にも剥ぎ取って」作られた、という部分を入れるかどうかだろう。「なめらかで均質な景観」と対比される、本来の景観がもつ特質を述べた部分である。

問8でも「八〇年代以降に人工的に生み出されたなめらかで均質な景観経験」と、「九〇年代以降に露呈した、なめらかでも均質でもない現実」とのギャップが問われている。要するに、八〇年代以降に成立した景観経験は、「現実」と乖離した、極端に言えば単なるまやかしなのではないかという論旨だ。

 

本来の景観が含む「自然と歴史と文化」「なめらかでも均質でもない現実」の側に属するものとして、問8の解答に吸収されてしまう気もする。だから問5では除外してもよさそうに思えるのだが、「なめらかで均質な景観」対比される重要な内容だから、最初の解答の字数を削って80字以内に収めた以上は、入れられる。やはり入れよう。

そこで次のようにしてみた。

 

産業化された技術とデザインにより、土地それぞれの自然と歴史と文化を剥ぎ取る形で日本全国に作られた、平滑さや幾何学を特徴とする造成地と建築物からなる、似たような様相を持ち、同じような印象を与える景観(100字)

 

予備校の模範解答とは異なるが、これくらい書いておくと、絶対に0点にはならないはずだ。むしろ8割くらいはもらえるだろう。

 

要するに、

(イ)まず本文の解答に使える箇所を見極める。

(ロ)次にその箇所の語句を取捨選択し、順序を考えて一文にまとめる。

(ハ)字数やつながり具合を考えながら添削し、最終的な解答にする。

(ニ)解答用紙に清書する。

の手順は、基本的にどの大学のどの記述問題でも同じなのである。

 

そして「予備校や赤本の模範解答に近い、満点の答案」を書くことを考えず、上記(イ)(ニ)の手順を忠実に実行して、

 

「常に半分くらい以上は部分点を取れる答案」

 

をまとめるつもりで攻めていけば、積もり積もった部分点が、記述問題を敬遠する受験生をしのぐ国語の加点をもたらしてくれるわけだ。

今回、山形大学の問題でやってみたが、何度も繰り返すけれども、どの大学でもこの方針で、とにかく記述問題を埋めまくるのである。

 

山形大学2022の(一)の問8は、この調子で自分で書いて練習してみよう。

さて、本番までの時間が短いため、次回は東から順に、東京大学理科の問題を扱う。待ってました。お楽しみに。