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共通テスト国語2023 (2)──評論②

寒波の影響でわたくしQ氏にも急ぎの用事が発生し、平日の更新をお休みさせていただきました。医学部受験生だけでなく、大学受験生の皆さん、全国的な低温と雪に注意して、引き続き入試に全力投球してください。

 

さて、来年度(2024)受験生向けの共通テスト国語2023の解説、第1問(評論)の続きである。

 

建築家ル・コルビュジエが自ら設計した作品に取り入れた「窓」の意匠について、異なる視点から見た2つのテキストを並べた出題である。なかなかおもしろい問題だが、1番目のテキストの途中「視覚装置」の言葉が出てくるあたりから、受験生には難しく感じられるようになるはずだ。

1本目のテキスト(柏木博による)は、要約すれば次のようになるだろう。

ル・コルビュジエの建築における『窓』は、正岡子規の書斎のガラス障子が自然に果たしていた外界を眺めるスクリーンとしての役割を、より意識的に、より徹底した形で与えられている。壁と窓とによって構成される『視覚装置』としての建築を追究した点に、ル・コルビュジエの意匠の戦略性と独自性がある。」

 

さて、2本目のテキスト(呉谷充利『ル・コルビュジエと近代絵画──二〇世紀モダニズムの道程』)は、文章がより難解で、評論の苦手な受験生の中には、一読して意味をつかみかねた人も多くいたことと思われる。こういう文章を突きつけられると、テキストを読まずに問題に取りかかる「ヨマヌ真理教」に入信したくなる気持ちも分からないではない。現高2生はその誘惑を退けられるようにしておこう。

 

1本目のテキストでは、ル・コルビュジエによる「視覚装置」としての建築が主題となり、「窓」の役割の重要性に注意が向けられていた。

2本目のテキストでは、1本目と同じル・コルビュジエの著書『小さな家』の一節を引用しながら、窓よりも「壁」の役割に注目している。文章全体として、開口部である窓を構成するために外界を覆い隠し、風景を切り取る「壁」の働きこそが、ル・コルビュジエの建築意匠の中心なのではないか、という趣旨だ。

そして、2本目のテキストで筆者がル・コルビュジエの建築に見出している意義は以下のようなものである。

すなわち、建築においては、外界と屋内の空間とが「壁」によって隔てられていることが重要であって、その「壁」の開口部である窓によって、外部の「風景」を眺める屋内の(居住者の)「視点」が1点に定められることに意義がある。ル・コルビュジエが建築の内部空間を、壁によって外光から遮られた静かな瞑想、沈思黙考の場と考えていたことが、この「動かぬ視点」の存在から看取される。この「動かぬ視点」から見えてくるル・コルビュジエの建築に対する考えは、かれが別のところで述べている「動く視点」の概念とは対照的であり、かれの後期の宗教建築に具現化されている。

 

2本目のテキストは表現がやや難解であるのに加え、「動かぬ視点」と対比される「動く視点」が詳しく紹介されていないため、これらの二項の対立は明確に読み取りがたい。が、このテキストでは「窓」よりも「壁」の役割が重視されており、筆者が「外界を映し出すスクリーンとしての窓」よりも「外光を遮断し、窓を切り取る壁」により注目していることを読み取る必要がある。

けっきょく、同じ作者の建築について、「窓か壁か」どちらを強調するかによって、異なる見方が可能であるということが、大学入試センターさんが受験生の注意を促したい点なのだ。

「二項対立」を読み取るのならば、

〇1本目のテキストでは、同じ「スクリーンとしての窓」に関して、原初的なかたちとしての正岡子規の書斎のガラス障子」と、より意識的な形態としてのル・コルビュジエの建築の窓」の2つ。

〇2本目のテキストでは、「ル・コルビュジエが壁によって屋内に生み出した『動かぬ視点』」と、「彼が別のところで何度も述べている『動く視点』」の2つ。

が可能だろう。

が、1本目のテキストにおける「窓」と、2本目のテキストにおける「壁」が、テキストを超えた「二項対立」を形づくっており、その対立に受験生が注意を向けられるかどうかというのが、センターさんの「仕掛け」だと言えそうである。これはなかなか意欲的な出題だ。

そういう「流れ」が大まかにつかめると、これらのテキストは「読めた」感じがすると思う。評論の読解に際してよく言われる「二項対立」の読み取りの練習にはよい題材かもしれない。

 

選択肢の検討は紙幅の関係で、あまり詳細にやらないことにして、次回お送りする予定である。