オンライン医学部予備校

2023年度入試で医学部(東大京大)への合格を目指す全ての受験生をサポートします。

感覚のリセット

前回、秋のスランプ期に積極的にリフレッシュの機会をもつことをおすすめした。その中で、普段の勉強の際には使わない感覚器官を使うとよい、と申し上げたが、今日はちょっとその補足。

 

受験勉強はどうしても身体の姿勢が固定しやすく、血行も悪くなって疲れが溜まりやすい。座って勉強していると、やたらと眠くなって困るという人はいないだろうか。勉強中に眠くなると罪悪感を覚える皆さんが多いだろうが、長時間姿勢を変えずに座っていれば、脳にも十分に酸素が行き届かず、眠くならない方がおかしいのである。

血行が滞ることで、食物の消化も進まなくなるようだ。特に、かつてスポーツをやっていた受験生は、本格的な受験勉強に入ってから、胃腸の不調を自覚することが増えたのではないだろうか。試験の際に「おなかが痛くなる」受験生は多いようだが、そもそも普段、身体を動かさず消化に悪い生活をさんざんしているのだから、試験会場で体調不良に陥りやすいのは当然である。

 

医学部入試という目標突破のために長時間の勉強は必要だが、受験生は、勉強時の姿勢が身体にも非常に悪いという、逃れがたいジレンマを経験せざるを得ないのだ。

いざそうだと分かっていれば、ただ漫然と不調をやり過ごすのではなく、積極的に「対策」を打った方がよいのではないだろうか。

 

対策の1つは「日常生活の中でのちょっとした運動」

意識して余計に歩く。面倒くさがらずに、日用品をいちいち出しに行ったり、しまいに行ったりする。気分転換に家事を手伝い、風呂掃除や軽い手作業(果物の皮をむくなど)をする。特に料理は段取りを考えながらやるため、その思考方法が勉強に活きてくる。余裕があれば、思いついた時になわとびをしたり、短時間でもランニングやストレッチをしたり。勉強の合間に椅子から立ち上がって屈伸したり、肩を回したりするだけでも、疲労の残り具合が違ってくる。

禅宗をはじめとする日本の仏教諸派が「行」を重んじる理由はこれだ。「行」は頭を冴えさせてくれる。廊下の雑巾がけにも、ちゃんとした意味があるのである。

 

記憶や発想は、歩きながらすると効率が上がることが、既に広く知られている。脚の筋肉のポンプ作用によって、血行がよくなり、脳まで新鮮な血液が行き届くという。古代中国の詩人が、詩の着想を得るのに適した場所として馬上、枕上(寝る時)、厠上(トイレ)」を挙げたのにも理由はある。頭の働きは、頭を専門に働かせようと姿勢を固定したとたんに、かえって鈍くなるもののようだ。

 

また、勉強の時に使わない感覚を積極的に使うことで、文字通り「目が洗われる」ような新鮮な気分を味わうことがある。これも、短時間でできる範囲で実践してみるといいかもしれない。遠くを見る、緑色のものや自然の風景を見る、たまには映画やアニメなど、ボーっとしながら目で楽しめるような刺激を得たり、美術館で無心に絵画を見たりする。そういう、特に視覚の「リセット」が、意外に効くような気がする。依存しすぎない程度で済んでいるのなら、ゲームに興ずるのもいいかもしれない。

 

適度な雑音のある環境の方が作業効率が上がる、というのも実験で確かめられているそうだ。音に過敏な人は一定数存在するが、無音よりもBGMがあった方が、作業が進むという人も多いらしい。社会人には、オフィスや自宅よりもカフェの方が仕事がはかどる、という人もいる。

以前は、受験生といえば深夜ラジオを聴きながらの勉強が定番だったが、気を取られすぎない程度の音量ならば、ラジオや音楽をかけながらの勉強の方が合理的なのかもしれない。個人差がありそうだが、試してみる価値はあるだろう。

 

「無音の勉強部屋にこもり、長時間机にしがみつかなければ勉強していることにはならない」というのは「神話」である。それぞれ環境の好みはあるだろうが、常に感覚を「リセット」し、五感に新鮮な風を入れながら勉強した方が、結局、成果は挙がるものらしい。

 

わたくしQ氏は受験生だった昔、勉強に「煮詰まった」秋の1日、田舎からわざわざ鈍行列車に揺られて上京し、東京にまだまだ多く存在していた「名画座」で昔の映画『12人の怒れる男』を見た(歳がバレるな…)。映画館の暗闇でスクリーンの白黒映像に無心に見入ったあの時間は、何十年経っても、ときおり心に蘇ってくる。

「時間が惜しいから映画など見に行くのは無駄だ」「コスパが悪い」などと考えていたら、今に残る貴重な思い出も、気分転換の効果も得られず、果たして大学に入れていたかどうかさえ分からない。衝動的に電車に乗って映画館を目指したあの時のQ氏は、何かしら、そのときやるべきことを本能的に探り当てていた気がするのである。